僕と済州島の物語

2002年に済州島でホームステイ、 2005年に済州島に留学、2013年に済州島で国際結婚、2015年に済州島で長男誕生。 そんな僕と済州島の物語です。

済州島留学物語 第1話【越境】

  僕を乗せた飛行機はいつの間にか国境を越えていた。

 夜勤が続いていたせいだろうか。離陸とともに眠りに落ちたようだ。

 握っていた地図が通路に滑り落ち、背の高いスチュワーデスの女性が拾い上げると、微笑みながら何か僕に声をかけてきた。韓国語だ。そしてそれは、夢うつつの僕を現実の世界へと一気に引き戻した。期待や不安が渦を巻きながら交錯する世界。軽いめまいさえ感じた。それが飛行機の轟音によるものなのか、あるいは僕の内面の奥深くから湧き上がってくるもののためなのかはわからない。

 隣ではスーツ姿のサラリーマンが、資料を片手に手帳に何かを書き込んでいた。その機敏で必死な動きは、狩人のようでもあり、狩人から逃れようとする動物のようでもあった。狩人も動物も生きるために必死なのだ。この世界を生き延びるために。

 1年後は自分もスーツに身を包み就職活動に励んでいるだろうか。うまく想像できない。

 済州国際空港に到着した時はすっかり夜だった。大学職員と思われる男性が到着ゲートで僕を迎えた。

「アンニョンハセヨ」

 続けて何か話していたが、うまく聞き取れない。そのまま駐車場に止めてあったワゴン車に乗せられてすぐに出発した。2月末の雨降る寒い日だった。

 僕の語学力を案じてか、車内は無言だった。何か話さなきゃと思いながらも言葉が出てこない。車内の沈黙は、飛行機の轟音以上に僕を窮屈に圧迫した。外の景色を見ている振りをする。いや、本当に見ていた。初めての海外。未知なる世界。これから自分の舞台となる世界を。だけど、その世界は暗闇にぼんやりと浮かぶ影絵のように、不気味で顔のない世界だった。

 ――時は2005年。

 この手記は、それまでの僕の22年間の人生の集大成であり、その後の人生の羅針盤である。

 そして、

 未知の世界と戦い続けた、僕だけの、いや、僕と済州島の物語だ。